平和な日本再生の鍵は労働問題

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平和な日本再生の鍵は労働問題

カテゴリー カトリック時評 公開 [2007/02/01/ 00:00]

――規制緩和や構造改革がもたらした格差や貧困の克服のために――

昨年来のライブドアや村上ファンドの躓きは、利潤を上げるためには形(なり)振り構わぬ野放しの資本主義、経済至上主義、市場原理主義の実態を垣間見せてくれた。こうした富の分捕り合戦の結果、先進国の中に存在するといわれてきた「国内の南北問題」とも第四世界とも呼ばれる新しい貧困層が、今や豊かで平和であるはずの日本にも現れてきている。最近のメディアの報道や論調を見ていると、仕事がなくて結婚できない若者たち、家庭を持っていても職が安定せず賃金も抑えられて生活に困るワーキングプアー、ホームレスや生活保護家庭の増加、80歳になっても稼がなければ暮らしていけない老人の話など、驚くべき実態が明らかになりつつある。こうした貧窮状態は数々の社会問題の引き金にもなっている。

教会の社会的教えは早くから、「社会問題の鍵は労働問題である」(回勅『働くことについて』n.3)と強調してきた。多くの人の生活基盤は家庭であり、家庭を支えるのは働くことであるから、労働問題が解決しなければ国も世界も平和にならない。だが、上記のような矛盾や貧困を憂える世論はようやく出始めたものの、「鍵となる労働問題」はまったく看過されている。

1-働くことは人間本来の尊い召命

働かなければ食っていけない、というのは人類の経験的知恵であるが、同時にそれは、聖書が教えるとおり、人間創造のはじめからの人間の召命であり使命である。神は言われた。

 「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ」(創世記1,28)。

こうして人間は、働くことを通して地を治めながら、①神の似姿としての人格を発展させ、②自らと家族の生活を養い、③社会の発展に貢献してきた。

従って教会は、働くことにおいて主体となる働く人の人格の尊厳を強調し、労働は資本に優先すると主張して止まなかった。この姿勢は今日も一貫して変わらない(回勅『働くことについて』、『新しい課題』ほか参照)。残念ながら、わが国においては、「会社は株主のものである」という議論に代表されるごとく、資本が労働に優先し、労働者は資本に仕える単なる労働力として、すなわち利潤を上げるための単なる手段ないし商品としてしか扱われていない。

2-国(政府)の役割の重要性

まず、規制緩和の真の意味を吟味しなければならない。「民間にできることは民間に」のスローガンのもと、官から民への構造改革と規制緩和は、「補完性の原理」(回勅『新しい課題』15)に基づいた国の政策として大いに評価できる。しかし、それは制限なき自由競争を助長するものであってはならない。抑制のない資本主義や市場原理主義は、少数の者に富の独占をゆるし、冒頭に記したように、必然的に弱肉強食の社会、新しい形の貧困や格差を生むからである。

従って、もう一つの国の役割は、弱者優先の原則に従い、また「連帯性の原理」に従って、仕事と財貨の公平な配分を実現することである。そのため、失業対策は目下の急務であり、美しい国づくり、愛の文明づくりの最優先課題である。また、少子高齢化が進む中、先行きが心配される年金制度は「市場原理」によってではなく、「この世の富は人類共有の財産である」という確信と、「連帯性の原理」に従って解決を図るべきであろう。

3-労働運動の刷新

資本主義体制において労働者の立場は概ね弱いから、教会は、働く人の尊厳と権利を守るため、強い立場の雇用者に対して対等に交渉できるように、労働者の団結と労働運動を奨励し、支援してきた。新聞報道などによると、現在、労働組合は著しく後退し、弱体化しており、パート従業員や非正規社員の増加等によって労働者の組織化の難しさも指摘されている。

他方、戦後の労働運動は概して階級闘争の路線上にあったので、さまざまな不都合も見られた。従って、労働の主体である働く人の人格の尊厳とその権利・義務に立脚した本来の労働運動を構築することが求められよう。抑制なき自由資本主義の暴走を止めるのは、公正な政治と本来の労働運動しかないのである。関係者たちの覚醒を、また特にカトリック労働運動の再起に期待したい。

(次回は2月15日、「いのちの神秘と召命」について)



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