第七の願い “悪よりお救いください”

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第七の願い “悪よりお救いください”

カテゴリー 折々の想い 公開 [2010/10/25/ 00:00]

鴨池教会

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「主の祈り」の黙想もいよいよ最後の願いに到達した。この最後の願いを考えるうちに、「人生は戦いである」という思いを深くする。それほどこの世には試練とともに堕落の危険があるということだ。しかし、キリストは、「われ世に勝てり」(ヨハネ16,33)と高らかに宣言された。だから、信頼して祈ることができる。

さて、主の祈りの最後の願いは、次のようなキリストご自身の祈りに支えられている。「わたしがお願いするのは、彼らをこの世から取り去ることではなく、彼らを悪から守ってくださることです」(ヨハネ17,15)。これはご受難を前にした主が弟子たちのためにした祈りであるが、それは同時に信者たちのための祈りとして受け止めて差し支えない。キリストは今も、御父のそばにいて、滅びの危険のただ中に生きるわたしたちのために祈っていてくださるのである。

この願いは、罪はあくまで個人的な行為であり、その責任は個人で担うべきであるから、当然わたしたち一人一人にかかわる祈りには違いないが、しかし、祈るのはつねに「わたしたち」であって、全教会の交わりの中で、全人類家族の解放のためにささげる祈りである。つまり、主の祈りはたえずわたしたちを救いのご計画の次元に導く。すなわち、罪と死のドラマの中で、わたしたちは互いに影響し合う相互依存関係にあるが、それは同時にキリストのからだにおける連帯と「聖徒の交わり」(Communion des saints)に取って代わられる。ヨハネ・パウロ2世は「人間には連帯する力」があるから、「罪の交わり(連帯)」と「聖徒の交わり(祈りの連帯)」とを対比しておられる(使徒的勧告『和解とゆるし』16参照)。

この願いの中で言及される「悪」とは、抽象的な悪ではなく、ペルソナ的存在者、サタン、悪い者、神の反逆する天使を意味する。「悪魔」(dia-bolos)とは、神のご計画とキリストにおいて成就した「救いの業」とに「逆らう」者のことである」と、カテキズム(2851)は教えている。人生には様々な悪が存在するが、人間を鍛えて徳に進歩させる試練のほかに、人間の心を汚し、人間を罪と死に導くものこそ真の悪があり、人間を罪と死に誘って、人間をその悪の支配下に服させようとする悪魔(サタン)が真の悪者である。

聖書は悪魔のことを「最初から人殺しであり、…嘘つきで、しかも『うそつき』の父である」(ヨハネ8,44)、「全世界を惑わすサタンである」(黙示録12,9)と表現しているが、この悪魔(サタン)によって罪と死が世に入ったのであり、その悪魔の決定的な敗北によって宇宙万物は「罪と死の腐敗から解放される」(ミサ典礼書・第四奉献文)のである。その辺りの事情をヨハネは指摘している。「わたしたちは知っています。すべえ神から生まれた者は罪を犯しません。神からお生まれになった方が、その人を守ってくださり、悪い者は手を触れることができません。わたしたちは知っています。わたしたちは神に属する者ですが、この世全体が悪い者の支配下にあるのです」(1ヨハネ5,18-19)。

このように見てくると、人生の戦いはまさに悪魔との戦いであることが分かる。この戦いは断然悪魔が優勢である。悪魔は元天使であり、人間をはるかに超えた知性と能力の持ち主である。人間は悪魔のだましにまんまと負けるのは日を見るより明らか。そして実際、人祖は悪魔に負け、罪を犯して神から離反し、世界は悪魔の支配下に置かれた。しかし、神は人類を見離さなかった。見離さなかったと言うより、人間創造の初めから人間の堕落を想定して対策を立てておられた。聖パウロは言う。「すべてのものは御子を通じ、御子へ向けて造られた…」(コロサイ1,16)。世界は御子キリストによって救われるために造られたのである。つまり、御子が人間となって人類の味方になり、神の子の権能をもって悪魔の企みをくじき、世界を神のものとして取り返された。イエズス・キリストのご一生は始めから終わりまで悪魔との戦いであり、最終的には十字架においてこの戦いに勝利された。「あなたたちはこの世では苦しむ。しかし勇気を出しなさい。わたしはすでにこの世にうち勝ったのである」(ヨハネ16,33)。わたしたちも洗礼式において「悪魔とその業」を捨て、御子に結ばれてその勝利にあずかるのである。

主の祈りの第七の願いは、そういう意味で、主の祈り全体の締めくくりのような気がする。悪からの救いは、世界において御父のみ名が聖とされ、み国が到来し、みこころが行われて、すべてが救われる、これこそ主の祈りの本旨である。



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