「信仰の遺産」とは何か

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「信仰の遺産」とは何か

カテゴリー 折々の想い 公開 [2013/02/15/ 00:00]

カトリック教会のカテキズム

カトリック教会のカテキズム

昨年10月に始まった「信仰年」にちなんで過去一年、あらためて第2バチカン公会議を振り返り、公会議に基づいて編まれた新しい要理書『カトリック教会のカテキズム』を参照してきたが、最近、カトリック信仰とは何か、そのルーツはどこにあるかを考える機会があった。

カトリック教会の教え(doctrina)は時として「信仰の遺産」と呼ばれる。ラテン語ではDepositum Fidei であり、直訳すれば「信仰の委託物」であるが、従来、この語は「信仰の遺産」と訳されてきた。『カトリック教会のカテキズム』のフランス語版でも、「信仰の聖なる遺産」(L’heritage sacre de la foi)と表現している(84番)。そして信仰の遺産とは、主キリストが教会に残した「その福音」であって、それがカトリック教会の教えとしてカトリック要理(カテキズムCatechisumus)の中に要約され、体系化されている。

さて、福者ヨハネ・パウロ2世教皇は1992年10月11日の日付で「信仰の遺産」と題する「使徒憲章」を発表して『カトリック教会のカテキズム』を正式に公布された。その冒頭で「信仰の遺産を守ること、これが主から教会にゆだねられた使命であり、これを教会はいつの時代にも果たしてきました」と言われた。そして、第2バチカン公会議の主たる目的が、「キリスト教的教えの貴重な遺産をよりよく守り、また、よりよく解説して、キリスト信者たちとすべての善意の人々がこれに近づきやすくする」ことにあったと、ヨハネ23世教皇の公会議開会演説を引用して強調された。

では、この信仰の遺産はどのようにして教会に委託されたのであろうか。これには二つの段階がある。第1段階では、キリストから使徒たちに福音が委託され(使徒伝承と呼ばれる)、第二段階では、使徒たちから全教会に福音が委託された(聖伝と聖書)。

『カトリック教会のカテキズム』は使徒伝承について述べる。

「いと高き神の全啓示の完成者である主キリストは、かつて預言者たちによって約束された福音を自ら実践し、そして自らの口をもって宣言してのち、使徒たちに、すべての救いの真理とすべての守るべき道徳の源として、すべての人に福音を宣べ伝え、彼らに神の賜物を分かち与えるよう命じられた」(75番)。

このように、信仰の遺産は主キリストから使徒たちに委託された福音である。ここで注意したいのは、キリストご自身は「聖書」を書いていないこと。では使徒たちはどのようにして福音を教会に伝達したか。『カトリック教会のカテキズム』は述べる。

「主の命令に基づいて、福音の伝達は二つの方法で行われた。

――口頭で。『使徒たちは、キリストの言葉を聞き、キリストとともに生活し、そのわざを目撃して知ったこと、あるいは聖霊の示唆から学んだことを口述説教と模範と制度をもって伝えた』(啓示憲章7)。

――書物によって。『使徒たちと使徒時代の人たちは、同じ聖霊の霊感により救いの知らせを書き物にして伝えた』(啓示憲章7)」(76番)。

つまり、使徒たちはキリストから委託された信仰の遺産を「聖伝」と「聖書」を通して教会に伝達したのである。『カトリック教会のカテキズム』はさらに、使徒たちは聖伝と聖書を正しく守り伝えるために、後継者である司教たちに「教導権」を与えたと述べる。

「福音が教会の中で常に無傷に保たれ生かされるために、使徒たちは、後継者として司教たちを残し、彼らに自分たちの教導職を与えた(啓示憲章7)。事実、使徒的宣教は、霊感による書物の中で特別な方法で表現されているが、不断の継承によって世の終わりまで保たれねばならなかった(啓示憲章8)」(76番)。

信仰の遺産は、まずキリストから使徒たちへ、次いで使徒たちから聖伝と聖書と、そして教会の教導職を通して世の終わりまですべての人に伝達されるのである。この信仰の遺産は各時代の必要や用途に応じて「カトリック要理」として教会の教導職から示されるが、これについては次回の話題にしたいと思う。