第五戒(2)正当防衛について

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第五戒(2)正当防衛について

カテゴリー 折々の想い 公開 [2013/10/01/ 00:00]

長崎市・カトリック中町教会のステンドグラス

主の洗礼

人命尊重を命じる第五戒を守るためには、何よりもまず自分のいのちを守ることから始めなければならない。それは同時に、他者のいのちを守る責任のある人々の防衛責任を明らかにすることでもある。カテキズムに従って、順次、見ていこう。

「各々の人間や社会の正当防衛は、意図的殺人を構成する罪なき人の殺害禁止における例外ではない。“自らを守る行為は二重の結果を招く可能性がある。すなわち、一つは自分自身のいのちの保全であり、もう一つは侵略者の死である。(…)一つだけが望まれたものであり、もう一つはそうではない”(聖トマス・アクイナス)」(カテキズムn.263)。

つまり、自分のいのちを守るための行為によってもたらされる侵略者の死は、意図されたものではなく、したがって罪なき人の殺害には当たらないし、第五戒に反することではないのである。カテキズムはさらに、自分自身に対する愛は倫理の基本であると、次のように述べる。

「自分自身に対する愛は倫理の基本原理である。したがって、いのちに対する自分の固有の権利を尊重する行為は正当である。自分のいのちを守る者は、たとえ侵略者に死の一撃をもたらしたとしても、殺人の罪を犯すことにはならない。

  “自分を守るために必要以上の暴力をふるうことは不正である。しかし、抑制された仕方で暴力を退けることは許される。(…)救いのために、他者の殺害を避けるための抑制された防御行為を断念する必要はない。なぜなら、他者のいのちよりも自分のいのちを守ることが優先的義務だからである“(聖トマス・アクイナス)。」(n.2264)。

次に、カテキズムは他者のいのちに責任を持つ者の正当防衛の義務、特に国家権力の権利・義務について述べる。「他者のいのちに責任を持つ者にとっては、正当防衛は権利であるばかりでなく、重大な義務となる場合がある。共通善の防衛には不正な侵略者の有害行為を封じる必要がある。その意味で、正当な権威を持つ者は、自分の責任に委託された市民共同体の侵略者を排除するために武力さえも使用する権利を有する」(n.2265)。

「人々の権利や市民社会の基本的な規定に反する有害な行為が広がるのを規制する国家の務めは、共通善を守るという要求にこたえるものである。正当な公権には、犯罪の重さに比例した刑罰を科す権利と義務がある。処罰の第一の目的は犯罪が引き起こした無秩序を正すことである。犯罪者が進んでこの刑罰に服する時、償いの効果が達せられる。処罰はまた、公共の秩序を守り市民の安全を擁護することのほかに、治療を目的としており、可能な限り、犯罪者の矯正に役立つものでなければならない」(n.2266)。

「教会の伝統的な教えは、犯罪者の身元や責任が確定した場合、もしそれが不正な侵略者から人命を効果的に守る唯一の可能な道であるならば、死刑を科すことも排除しない。

しかしながら、正当な理由なく攻撃する者に対して、血を流さずにすむ手段で人命を十分に守ることができ、また公共の秩序と人々の安全を守ることができるのであれば、公権の発動はそのような手段に制限されるべきである。そのような手段は、共通善の具体的な状況にいっそうよく合致するからであり、人間の尊厳にいっそう叶うからである。

実際、今日では、国家が犯罪を効果的に防ぎ、償いの機会を罪人から決定的に取り上げることなしに再犯を防ぐことができるようなったので、死刑執行が絶対に必要とされる事例は、“皆無ではないにしても、非常にまれなことになった”(ヨハネ・パウロ2世回勅『いのちの福音』56)」(n.2267)。

以上に示された、社会の秩序が保持され、市民の安全が保障される限り、犯罪者のいのちを尊重してその更生を図るため、極刑は避けようという教会の教えは、世界に広がる「死刑廃止論」を後押しすることになったが、わが国においては、被害者家族の犯人を許せない気持ちや、報復の気持ちなどの感情論から、死刑制度を維持しようという空気が強いようだ。仇討を美談としてきた日本文化の影響かもしれないが、感情論はもうそろそろ克服してはどうだろう。第五戒の掟はキリスト者ばかりでなく、すべての人に適用されることを忘れるべきではあるまい。



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