ヨハネ23世の『地上の平和』

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ヨハネ23世の『地上の平和』

カテゴリー カトリック時評 公開 [2007/01/01/ 00:00]

――平和を創るための基礎知識――

北朝鮮やイランの核開発をめぐって世界は騒然とし、防衛論議が盛んである。一方、憲法9条を守れば平和が守れるという単純な発想も見られる。しかし、平和は絶えず建設すべきものであって、単に守るだけのものではない。そこで今回は、1月1日のカトリック「世界平和の日」にちなみ、平和とは何か、平和のために何をなすべきか、その基礎知識を学ぶために、かの有名な教皇ヨハネ23世の不朽の回勅、『地上の平和』(邦訳は1995年・サンパウロ)を要約して紹介してみたい。

『地上の平和』の特徴

高齢で教皇に選ばれたヨハネ23世は、1963年にこの回勅を発表した。その特徴は幾つかあるが、一つは、この回勅は回勅としては初めて教会の枠を超えて「すべての善意の人々」に宛てられた。実際、世界中の大変な評価を受け、共産圏にも影響を与えた。

もう一つは、平和の実現のために良心の役割が強調される。多元社会においては、万人普遍の良心こそ、世界平和に必要な共通の倫理的基盤を提供するからである。

真の平和とは

「あらゆる時代の人々が切望して止まない地上の平和は、神の定めた秩序を全面的に尊重してはじめて、これを築き、固めることができる」と回勅は冒頭で強調する。つまり平和は一つの「秩序」であって、従って真の平和とは、単なる戦争の不在でもなければ力の均衡でもなく、安定した秩序、聖アウグスチヌスのいう「秩序の静けさ」である。この秩序は、物理的な秩序ではなく、人間の精神的(倫理的)な秩序であって、これは万人の良心によって知られるものである。

平和の基準は人間の権利と義務

次に、平和を築き、平和を測る基準は、尊厳ある人格として万人が持つ基本的な権利と義務である。その内容は多様で、回勅は、生きる権利など基本的な人権を列挙するほか、国連の「世界人権宣言」を高く評価している。なお、権利と義務はつねに表裏一体であって、決して切り離せない。権利は必ず義務を伴う。

平和を支える四つの柱

回勅は平和を支える柱として真理、正義、愛、自由の四つを挙げ、次のように説明する。平和を築くためには、相互の権利義務を誠実に認めること(真理)、権利を尊重し義務を実行すること(正義)、各人に、他人の需要を自分の需要のように感じさせ、他人に自分の善を分かたせ、全世界の人々の間に精神的価値の領域における交換をますます深めさせること(愛)、自分の行為について責任を負う理性的存在である市民の尊厳にかなった仕方で行うこと(自由)である。要するに、平和というものは相互の権利義務を、自由と責任をもって認め、守り、愛することによって達成され、どの一つが欠けても平和は壊れる。

すべての個人と団体の間で

以上の平和の原則は、個人と個人との間、個人と国家との間、国と国との間、そして国際関係の中で、類比的に、またイデオロギーを越えて適用すべきだとしている。

なお、回勅は国際平和の番人として国連を重視し、その正常な発展に期待している。

【次は1月15日「いじめ自殺が提起した教訓」について】