国際貢献と言うけれど
カテゴリー カトリック時評 公開 [2008/02/15/ 00:00]
昨秋以来、国際貢献という言葉を何十回、何百回聞いたことだろう。アフガンにおけるテロとの戦争に自衛隊を派遣することが唯一の国際貢献でもあるかのような大合唱のもと、多くの反対を押し切って新テロ対策特別措置法が成立したが、先日の朝日新聞に載ったJICA理事長緒方貞子さんの「アフガン報告」はこれに異議を唱えるものだった。
緒方貞子さんといえば、国際政治学者、国際協力機構(JICA)理事長、元国連難民高等弁務官などのキャリアに加えて、カトリック信者だと聞いているそのバランスの取れた誠実な人柄のゆえか、おっしゃることには妙に説得力がある。その緒方さんが去る1月15日の朝日新聞「私の視点」に寄稿された「アフガニスタン・復興から開発へ・支援加速を」と題する一文はまさに傾聴に値する。
1)それは冒頭でこう述べている。「昨年12月、アフガニスタンを訪れた。(中略)日本をはじめ多くのドナーが02年に本格的な協力を始めて5年余り、アフガニスタンは着実に発展に向けて動き出していた。カブール市内の随所で建設工事が行われ、市場も人々でにぎわい、朝夕のラッシュ風景など、活気にあふれていた。無論、タリバーンを中心とした治安問題は厳しいが、報道されるのは、もっぱら治安の悪化をはじめとする「陰」の部分で、こうした「陽」の部分はあまり日本に伝えられていない」。
これは、アフガニスタンの発展ぶりと報道の偏りについての指摘であると同時に、米国の戦争に協力して自衛隊の派遣継続を意図する政府・与党の世論操作と、それに乗せられた形のマスメディアへの一つの批判であり反証ではないかと思う。ましてや多くの市民の犠牲を伴う先制攻撃が国際テロに対する正当防衛に当たるかどうかが疑問視され、また、たとえ後方支援とはいえ事実上戦争に参加する自衛隊派遣は憲法違反ではないかという疑いが皆無ではない状況においてはなおさらのことである。
2)続いて緒方さんは述べている。「現地では、カルザイ大統領はじめ多くの閣僚や国連等の国際機関のトップと会談した。総じて日本がこれまで行ってきた復興事業に対する評価は高く、同時に、今後の継続的支援に対する期待も表明された。(中略)今回の訪問の機会をとらえ、アフガニスタンにおいて女性に贈られる最高位の「マラライ勲章」を大統領から授与されたが、この勲章には日本国民への感謝の意も込められているものと感じている」と述べているが、これまで、「自衛隊を出さなければ国際貢献と見なされない」とか、「感謝されない」とか言われてきたが、それは一部の心無き批判に対する過剰反応であって必ずしも真実ではなく、自衛隊の海外派遣を正当化するための「偽装」された議論であったということになるのだろう。
3)最後に、緒方さんはこの報告を、「営々と築いてきた日本のアフガニスタン支援を継続・発展させることは日本の国際貢献を世界に示す重要なあかしと信ずる」と結んでいる。ここにも、JICA等の復興・開発支援が真の国際貢献であることが強調されている。従って、自衛隊のインド洋派遣や給油活動に要する莫大な費用を上記のような平和的支援に振り向ければ、どんなにか有効な国際貢献となり、現地の人々にも喜ばれることだろう。そして、もしそれがテロ根絶につながるなら、いちばん喜ぶのはむしろ米国ではないだろうか。
事実、テロの根を絶つには、際限なく反発を呼ぶ武力による鎮圧ではなく、人道支援などを通してテロリズムを正当化しようとする根拠を絶つことが必要である。ヨハネ・パウロ2世は20年前に警告している。「正義の要求が無視されるなら、不正義を押し付けられ、その犠牲となった人々の間に暴力でこれに対抗してもかまわないのだという誘惑が頭をもたげてくることになるでしょう」(回勅『真の開発とは』(Sollicitudo Rei Socialis)10)。このグローバル化の時代、「世界的レベルでしか正義の要求が満たされえないから」(同上)、途上国の貧困や未開発は押し付けられた不正義とされるわけだが、テロリストにそんな誘惑や口実を与えないためにも、貧しい国々に対する有効な支援と開発は、まさに富める国にとっては緊急の課題である。