正念場を迎えた日本の民主主義

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正念場を迎えた日本の民主主義

カテゴリー カトリック時評 公開 [2008/04/15/ 00:00]

参議院の反対により、ガソリン税の暫定税率延長が阻止された。多くの人はこのことをいたずらに混乱を招き、国政を停滞させると批判するが、教会の社会教説の観点からすれば、これは日本の民主主義が本格的に機能し始めたことを意味しているのではないか。

人間は物質的・現世的秩序と霊的・倫理的秩序の両面を生きており、国家と教会はそれぞれを自主独立の仕方で使命を分担している。従って、教会は現世的事柄を自らの使命とはぜず、政治に直接介入することもない。しかし、人間にかかわることはすべて教会の配慮するところであり、従って、教会はレオ13世教皇(在位1878-1903)以来構築してきた「社会教説」をもって国家のあり方についても教えてきた。

1)教会は全体主義政治を排し、民主主義体制を支持する。

国家という政治共同体は人間の社会的本性(自然)に基づくもので(ルソーなどの社会契約論とは異なる)、従って、国家に不可欠の権力(権威)は人間からではなく創造主である神に由来するが、政治体制をどうするか、誰に権力を担当させるかは国民が決める(第2バチカン公会議『現代世界憲章』74参照)。その観点から、教会は全体主義政治体制を排斥する。全体主義は「真理」(神)を否定して自らの政治権力を絶対化し、「人間の超越的尊厳」を否定して国民の自由(人権)を侵害するからである(レオ13世の社会回勅『レールム・ノバールム』から百年目の1991年に発布されたヨハネ・パウロ2世の回勅『新しい課題』44参照)。

他方、教会は君主制であれ(象徴天皇制は君主制に準ずる)、共和制であれ、すべての民主主義政体を条件付で評価してきた。ヨハネ・パウロ2世は述べている。「教会は、民主主義体制が、市民の政治的選択への参加を確かなものとし、自分たちを治める者を選び、その責任を問い、必要なときには平和的手段で彼らを交代させる可能性を市民に保証するかぎり、民主主義体制を評価します」(回勅『新しい課題』46)。この観点から見れば、自民党が半世紀以上にわたって政権を独占し、いわば一党独裁を続けてきたのは異常である。だが、政権交代を可能にする野党の躍進によって、日本の民主主義もようやく成熟した段階を迎えたといえるのではないか。

それにしても、さる4月1日をもってガソリンの暫定税率が期限切れになったことは意味深長だった。これは、良識の府とされる参議院が政党化し、政府与党が衆参両院を制することによって失われてきた参議院本来のチェック機能が、参議院の与野党逆転によって回復された結果であり、わが国の政治が国政選挙で示された「民意」によって本格的に左右される時代に入ったことを意味しよう。

 2)民主主義体制は三権分立の適正な運用によって確立する

ヨハネ・パウロ2世は述べている。「このような秩序付け(立法・行政・司法の三権分立による社会の組織化)は、人間の社会的本性に関する現実的な見方を反映したもので、すべての人の自由を守ることのできる法制度を要求しています。この目的のためには、三権の間につり合いが保たれ、この三権とその責任範囲が固有の領域を超えない状態が望ましいのです。これが「法の支配」の原則です。そこでは個人の恣意的意志ではなく、法が支配します」(回勅『新しい課題』44)。

わが国には三権分立は形の上では確立しているが、長年にわたる一党独裁の結果、制度疲労や政官癒着の利権構造化を来たしているのは明らかで、薬害肝炎や国民年金問題に見られる国民不在の行政、道路特定財源や特殊法人の問題に見られる税金の無駄使いなどはそのしるしであろう。こうしたたるみや弊害も参院の与野党逆転で改善の兆しが出てはきたが、ここでも政権交代が問われている。

ついでに言えば、もともと民主主義は完璧な体制ではない。国民は神でも天使でもないからだ。しかし、だからこそ民主主義が評価されるとも言える。かつての王政におけるような独裁的手法は決断が早くて効率がよく、為政者が聖人君子であるならば善政をしく可能性もあるが、一歩間違えば国民生活に重大な害悪をもたらす。これに比べ、民主的手法は時間がかかって効率は悪いが、間違った場合でも被害は比較的小さく、政権交代によって手直しも効く。その上、倫理に抵触しない純粋に政治的な問題には複数の選択肢があるから多数決原理が通用する。これらは、国民生活が多様化し、民度が向上した現代において、民主主義が評価される理由である。だから、民主主義を定着させるには多少の混乱や停滞があっても我慢しなければならない。単なる効率主義は危険である。



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