アブドラ国王、一神教サミットを提唱
カテゴリー カトリック時評 公開 [2008/05/01/ 00:00]
「サウジアラビアのアブドラ国王は24日、文明間対話の促進を目的とするキリスト、ユダヤ、イスラムの3宗教によるサミット開催を提唱した」と、3月26日の朝日新聞はリヤド発ニュースを伝えた。「同日から討議が始まった日本とイスラム世界との文明間対話セミナーに参加した宇野治外務政務官、朝日新聞記者らをリヤド市内の国王私邸に招いた席で明らかにした」。
その狙いと問題点は何か。新聞記事は続けて、「サミット開催には、ユダヤ教国家イスラエルとの歴史的な和解を視野に入れる必要があり、宗教間対話を通じて中東和平の進展を側面支援する狙いがあるものと見られる」としている。
一方、4月6日付カトリック新聞は、国営サウジ通信が英語で公表した3月24日の国王の演説で、「イスラム指導者たちとさらに協議を重ねた上で、キリスト者とユダヤ教徒との会議を提案したいとしている」と報じた。その狙いについて、「聖書とトーラーの教えも、コーランと同様に、『宗教や倫理、家庭制度を悪用する者たち』から人類が身を守る助けとなるはずだ」と指摘したと伝えている。
その上、両新聞とも、アブドラ国王が昨年11月、国交を持たないバチカンを訪問、サウジ国王として初めてローマ法王ベネディクト16世と会談し、「法王は私をあたたかく歓迎し、人間対人間として対話をした。そのことを決して忘れない」と振り返ったと報じた。
ところで、サウジ国王の「3宗教サミット提唱」という注目すべきニュースは、わたしが知るかぎり、わが国のメディアに何の反応も引き起こさなかった。一神教批判の強い国だから仕方ないことかもしれない。しかし、この提案は重要である。三つの一神教のサミットが実現するには幾多の難関が予測されるが、しかしそれが実現するとなるとまさに歴史的な出来事であるばかりでなく、一神教への世界の誤解を解き、唯一神の権威を取り戻し、さらには倫理的秩序の回復と人類一致の実現に大きく寄与することは間違いない。
1)偉大な一神教の威信回復のために
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の信奉者はともに聖書の民であり、聖書を通して人類に語りかける超越的人格神を信じているから、神の言葉の理解や実践においては大きく違っていても、信仰の原点、そして究極目的は共通であり、一つである。にもかかわらず、過去においてしばしば対立して人類のつまずきとなり、唯一神の尊厳と権威を貶めてきた。そのため、一神教は独善的で排他的であり、世界に不和と争いを持ち込んだ当事者として批判されてきた。従って、サウジ国王が提唱する3宗教サミットは、偉大な一神教の栄誉と権威を取り戻す絶好の機会となるだろう。
2)人類一致の真の力となるために
唯一神への信仰は人類一致の究極の原理である。なぜなら、聖書が啓示する唯一神は、「人類共通の起源であり、共通の目的である」(第2バチカン公会議『諸宗教宣言』1)からである。この唯一神を奉ずるユダヤ・キリスト・イスラムの3宗教は合わせて世界人口の約53%を占めており、この3宗教が互いの違いを超えて協力すれば、世界平和の実現に向けて大きな一歩となることは疑いない。そればかりか、一神教の対話と協力は人類一致のために不可欠である。神は唯一であるからこそ人類全体を一つに包む普遍性を持つ。「多様性における一致」(Unitas in Varietate) は世界平和の理想であるが、多神教には多様性はあるが決定的な一致の原理がない。「画竜点睛を欠く」が如しである。
カトリック教会は第2バチカン公会議(1962-5年)以来、諸宗教対話、特にユダヤ教とイスラム教との対話路線を堅持してきた。ヨハネ・パウロ2世は1996年、紀元2千年にはシナイかエルサレムか、どこか3宗教ゆかりの地でユダヤ教、イスラム教との対話集会を開きたいとを呼びかけた(『紀元2000年の到来』53)。そして2000年には、「大聖年の扉を開けてすぐに『浄化の祈り』を行い、この一千年間にカトリックが犯した罪―中南米、スペインの征服、そして十字軍の戦い、十字架によってではなく剣によってキリスト教を拡大した罪について神に赦しを乞われた」(長年教皇に仕えたピタウ大司教の言葉・文芸春秋3月号)。現教皇もその心を引き継いでおり、アブドラ国王はその心に触れた。そして今、ムハンマドの国アラビアから一つのしるしが現われた気がする。この11月にはイスラム教の複数の指導者が教皇に会うことになったとの報道もある。わたしたちはこの「時のしるし」をしっかり識別して、教皇のため、そして一神教サミットの実現のために祈りたいと思う。
(付記)
4月20日付毎日新聞によれば、訪米中のローマ法王ベネディクト16世は18日夕、ニューヨークのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝堂)を訪れ、宗教間対話に意欲を示した。また、出迎えたユダヤ教のラビ(導師)シュナイアー師は、「私たち2人はともに戦争、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を経験した。法王の今日の訪問は、ユダヤ・カトリック関係が進展していることを示している」と応じたという。