政治も経済もその理念が大切

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政治も経済もその理念が大切

カテゴリー カトリック時評 公開 [2010/07/15/ 17:17]

菅直人首相が唱えている経済の第三の道が注目されている。わたしは経済の専門家ではなく、政治・経済政策の当事者でもないが、信仰・道徳の立場から、より公平な国民の共通善を求めて新しい道を選択した民主党政権の試みに注目し期待している。 社会保障を強化して経済成長を図ろうとする菅首相の第三の道については、一部の識者や専門家たちの間で好評であり、その実現のためには幾つかの条件も必要なようだ。

まず何よりも、民主党政権の理念は自民党の政治理念とは正反対のようである。7月7日の朝日新聞で作家の池澤夏樹さんは書いている。「菅直人首相は就任の記者会見で『政治の役割は・・・最少不幸の社会を造ることだ』と言った。久しぶりに為政者の口から質量のある言葉を聞いたと思った」(『最少不幸の原理』)。「最大多数の最大幸福」という理念は、儲けられる立場の者はいくらでも儲ければよい。貧しいものはそのお流れを被る。だから政府は金儲けを支援するだけでよい、とする自民党小泉政権の理念であったというわけである。これに対し、「最少不幸」の原理は小泉政治を根底から否定するもので、それが明言されたことの意義は大きい、と池澤さんは言う。

政権交代の最大の意味はこの政治理念(哲学)の本質的な違いにあるとわたしも思う。消費税増税論議など、自民党と民主党の違いはないなどと高をくくる向きもあるが、政官業の鉄のトライアングルと呼ばれた癒着構造の中の大企業優先の政治理念から、国民生活重視の最少不幸社会を造るという政治理念への転換は、まさに本質的な違いであって、これが見逃されることは大変な問題である。わたしが思うに、この政治理念の転換は、「利己的な金儲け主義」から「分かち合いの友愛路線」への転換であった。

次に、経済学にも幾通りもの道があるという専門家の指摘も見逃せない。6月26日の朝日新聞で、数理経済学の小島寛之帝京大教授は、菅首相の「増税と経済成長の両立という発想には、一部の論客たちから辛辣な批判もあるが、経済理論家である筆者には、非常に興味深い」と書き、「菅政権の壮大な社会実験」に賛意と期待を寄せている。市場原理に任せておけば万事うまくいく、といった従来の経済理論や、不況の時には政府か介入して金融の規制強化をすればよい、といった新ケインズ派の理論のほかに第三の道があり得るというわけである。

菅首相の首相就任会見で、強い経済、強い財政、そして強い社会保障の三つを同時に推進していくという発言をわたしも聞いた。そのとき、彼は「スウェーデンのように」と言った。スウェーデンではこの第三の道が実現しているという意であろう。このことについて、中央公論5月号の神野直彦東京大学名誉教授の記事が想起される。「小さな政府では格差と貧困を解消できない――現金給付とともにサービス給付の充実を」と題する論説である。

この論説の中で、神野教授は初めに「乏しきを憂えず、等しからざるを憂う」という孔子の言葉を引用している。この聞きなれた言葉は、世界の富は人類共通の遺産であり、「人類全体が公平に分かち合うべきである」という教会の社会教説に通じるものがあり、「格差と貧困」の解消を目指す民主党政権の政治理念に注目して期待するゆえんである。

神野教授の各種データを基にした指摘はみんな新鮮なものだが、特に注目したのは次の二点だ。一つは、重化学工業を基軸とする工業化社会から、知識産業やサービス産業というソフトな分野に産業構造の基軸が転換すれば、新しい経済・財政構造が必要になってくるという指摘である。第三の道への転換のときであるという意味にもなる。

もう一つは、育児サービス、養老サービス、医療サービスを無料にして、対人社会サービスをユニバーサルにしたほうが、現金給付よりは格差や貧困の解消になる、という指摘である。こうすることが労働配分を公平化し、同時に一定の経済成長も図れるというわけである。スウェーデン方式の財政運営の妥当性がここに示されているのではないか。

要するに、人間は誰しも、正当な結婚による家庭生活を基本にし、みんながそれぞれに働いてその成果を公平に分かち合って生きられる社会こそ、社会的な存在として創造された人類にもっともふさわしいのではないか。そのための「壮大な実験」が始まったというわけだが、その理念がいかに理解され、実践されていくか、政権運営の動向が注目される。たとえ同じ経済成長を語っても、政治理念が異なれば、その意味するところは全く異なってくるはずだ。しかし、先の参議院選挙では政治理念はほとんど無視された。



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