和魂洋才の時代に戻るのか

糸永真一司教のカトリック時評 > カトリック時評 > 和魂洋才の時代に戻るのか

和魂洋才の時代に戻るのか

カテゴリー カトリック時評 公開 [2013/08/10/ 00:00]

来る8月15日は68回目の終戦記念日である。日本国がボッタム宣言を受け入れて無条件降伏したあの日は、新生日本の新しい出発点となった。しかし、安倍政権は「日本を取り戻す」という。その真意はどこにあるのか。

戦前の日本と戦後の日本を分かつ根本義はいろいろと表現されるが、その中心は天皇主権から国民主権への変化であろう。それは、日本固有の国家観から人類共通の普遍的な国家観への変化と表現できよう。いわば、戦前の和洋対立から和洋一致へ、あるいは人類一致への変化をいうこともできる。

それにつけても思い出されるのは“和魂洋才”である。シドッチ神父の来日以来、新井白石らによって唱えられて次第に形成された洋才取り入れの思想は、佐久間象山によって”和魂洋才“という四文字に集約され、明治維新を期して日本の国是となった。それが1945年の敗戦によって崩壊し、人類共通の普遍的な人権主義などの新しい国是が新憲法に盛られた。連合軍の発議によってもたらされたこの新しい国是を日本国民は受け入れて今日に至ったことは紛れもない事実である。

しかし、「戦後レジムを清算して日本を取り戻す」という安倍政権の憲法改正論議は、万国共通の普遍的な価値観から日本固有の価値観に戻ろうというのであろうか。とすれば、それは和魂洋才という国是への回帰を意味しないか。和魂洋才を国是とした明治政府は、ヨーロッパ文明の取り入れに際して、その魂となっているキリスト教を排除し、記紀神話に由来する天皇を頂点とする「国家神道」をもって日本国家の魂とするものであった。この国是のもと。明治憲法は諸宗教の自由を認めつつも、国家神道という超法規的な権威によって諸宗教を統括しようとしたのであった。

ところで、憲法改正論議を特集した世界誌7月号に面白いエピソードを見つけた。2011年12月に立ちあげられた自民党の「新憲法草案」の起草委員会での話だが、現憲法97条を削除するに際して、片山さつき氏が「天賦人権説をとるのはやめよう」と発言したとされる。起草委員会の事務局長を務めた磯崎陽輔参議院議員はこのいきさつ説明して述べる。「天賦人権説と言うと、そこにはキリスト教の神様が出て来て、日本の神様と違う」と。97条の人権説は西欧のキリスト教に由来するという前提の話である。

要するに、新憲法からはキリスト教色を排除して、日本の神様を基盤にしようというわけである。つまりは、“和魂洋才”という、戦前の国是に戻ろうという議論であることは疑いない。もしこのような思想を背景とする憲法改正論議であるとすれば、それは時代錯誤も甚だしいと言わねばならないだろう。

第一に、現代は「諸宗教対話」の時代である。第2バチカン公会議によっては排他主義を放棄して包括主義という本来のあり方に戻ったカトリック教会は、互いの信条の違いを認めつつも、超越的実在としての神に向かう限り諸宗教はよいものと認め、対話と協力を通して真理を求め、人類の一致と平和に尽くそうとする時代を開いた。

第二に、現代民主主義国家は押し並べて「政教分離を」を国是としている。宗教多元社会である現実に鑑み、特定の宗教を政治に直接持ち込むことはタブーとされているのである。キリスト教の自由を制限する共産主義国家における人権問題や、イスラム色を強めるトルコやエジプトにおける民主化デモの混乱を見るにつけ、信教の自由を尊重する政教分離は現代民主主義国家における必須の条件でなければならない。

第三に、人格の尊厳とその基本的人権は、今や民主主義国家に共通の普遍的な価値観であって、その由来について異議を唱えることはまさに時代錯誤である。これからの日本は「人類普遍」の価値観に立って国づくりを進めなければならない。もしかりに万国共通の価値観ではなく、違いを強調して日本固有の価値観の上に国づくりを目指すならば、和魂洋才の原理に立ち、日本にしか通用しない特殊な理想を掲げて国際社会に挑むことにならざるを得まい。そのような観点に立てば、「侵略の定義は決まっていない」とか、国家神道に尽くした戦没者を神格化して祀り、信仰の対象とする靖国神社参拝に固執するとか、戦後レジムを清算して日本を取り戻すといった安倍政権の姿勢の本質が見えて来よう。

わたしはカトリック教会の聖職者として政治課題や憲法改正の具体論に立ち入るつもりは毛頭ない。だが、政治の目的は人間ひとり一人の共通善、すなわち、“神聖にして不可侵”の人格の尊厳と基本的人権を擁護し実現することにあるという原則に立ち、政治の基本的な在り方について発言することは宗教者の責務であると確信している。そして、これからも国民の賢明な政治的かつ倫理的判断に期待する。68回目の8月15日を迎える今のわたしの心境である。



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